中国海賊版事情と政府の統制
さて、中国といえば海賊版、というイメージがあるわけですが、それでは実際のところはどうなっているのでしょう?
実際、かつて中国には海賊版の日本マンガが氾濫していましたし、今でも流通していますが、中国に海賊版が多いのにはじつは理由があります。まだ貧しい人が多いとか、国が広いので流通が行き渡らないといった、経済的・地理的な理由もありますが、それ以上に重要なのは、中国では先述したように日本動漫が自国を席捲することへの危機感を持っていますから、日本マンガで中国政府から正式に出版を許可されるのは年間5タイトル以下!
これは明文化されているわけではありませんが、実際そのくらいしか許可が下りない。尖閣諸島問題で日中関係が悪化した12年後半から13年にかけては1タイトルも許可されなかったと聞いています。5冊ではなくて5タイトルですから、たとえば『ONE PIECE』1タイトルで70冊以上順番に出していけるわけですが、それにしても極端に少ない。これでは、読みたいと思っても、海賊版でなくては読むことができないので、海賊版の出版も無理はないと言えるでしょう。
また、一見マンガに見えながら、アニメのキャプチャー画面をマンガのように並べた、アニメのフィルムブック(カラー)が正規版のマンガと並んで売られているのも、中国人はアニメ好きだからというだけでなく、こういう理由もあるのかもしれません(ちなみに日本のアニメは06年から、17時から21時までのゴールデンタイムには放送禁止となりました。今では日本アニメはほとんど中国では放送されていません)。
このように正規版の日本マンガは数少ないとはいえ、海賊版としては、中国でもかなり多種類の日本マンガが売られています。人気マンガで翻訳されていないものはほとんどないのではないかと思うほどです。そして、ふつうのコミックスタイプの海賊版の他に、中国独特の海賊版の形があります。全巻まとまって美麗な化粧箱入り。すごくかっこよくて素敵なセットなのに、ページを開けば、あ〜〜〜ら、こ、これは何???
ものすごくページがぐちゃぐちゃしている。何が何だかわからない。
よく見ると、1ページの中になんと4ページが縮小されて詰め込まれている!――ああそうか。だから長いはずの物語が全3巻とか全4巻とかで収まっているんだ!それによって、外見は美しく、しかも値段は安く、というのを実現しているわけですね。でも、これはいくらなんでも日本人には読みにくい。それにこんなことされたら、「見開きの効果」とか「視線誘導」とか、日本のマンガ技術が、もうメチャクチャじゃない!
そうなんです。でも、経済的な要求からきたこんな形式が、また新たな形式を生み出したりするから、世の中はわからない――まあ、それはまたあとのお話、ということにしておきましょう。
私が2008年に広州に行った時には、北京から遠いこともあって、メトロのいちばん大きな駅の上に「動漫特区」として行政が建てたショッピングモールの中の書店で、海賊版が堂々とたくさん売られていたんですが、最近では、政府の海賊版マンガへの取り締まりがとても厳しくなって、以前は日常的に道の両側に並べて売られていた海賊版も、海賊版の店も、北京ではまったくみかけなくなったそうです(何回も北京に行っていますが、実際私も見たことがありません)。それでも北京から遠いところでは売られているようですが、上海でもこんなことがありました。
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