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■80年代後半におけるコミックマーケット
80年代後半のコミックマーケットを中心とした同人誌即売会において行われた、ハイレベルなアマチュアやセミプロなどのクリエイター同士による創作意欲のぶつかりあいは、そこで生み出される創作物のレベルアップに大いに貢献することになった。また、その創作物を評価する先進的コンテンツ享受層のリテラシーの高まりは、ある意味において商業作品をも超えるような高度な創作物を要求するようになり、結果的に商業作品へと結実するレベルの企画・創作物を生みだすことになった。このように80年代後半になると、商業コンテンツ制作を行うさまざまな現場に食い込む同人作家たちが目立つようになっていく。それは女性サークル、男性サークルの両者に共通する現象であった。
この時期、女性サークルおよびコミックマーケットの肥大化に貢献したのが、『キャプテン翼』(高橋陽一)である。1981年より週刊少年ジャンプ誌上で連載が開始されたこのサッカー漫画は大ヒットを記録し、1983年よりテレビアニメ化された。このテレビアニメ版の放送をキッカケに、本来の番組側のターゲットであった男児のみならず、10代の女子の人気も集め、80年代中後期に至って、全国に数多くのキャプテン翼系のサークルが結成され同人誌が作られていった。ほぼ全編にわたって小中学生男子のサッカーの試合が描写される『キャプテン翼』であるが、女性ファンは、彼らの日常生活など本編に描かれていないサイドストーリーをふくらませ、特に少年愛を中心としたキャラクター間の友情・愛情を描写していった。著名な漫画家もこのムーブメントから多数出現している。この後、80年代後半を通して、少年キャラクターが多数登場する『聖闘士星矢』や『サムライトルーパー』などが人気を集め、サークルや同人誌の数を劇的に増加させる大きな要因の一つになっていった。
また、男性サークルの中からも、同人誌≒アマチュアコミックという認識を突き破り、集団制作を必要とするアニメーションの制作を自力で実施するサークルが登場したことは注目される。とはいえ、自主アニメ自体の歴史は、ここに始まるというわけではなく、有名なところでいえば70年代後半に制作された「セメダインボンド」などの先例があったことが知られている。それでは、コミックマーケット文化を通過した後の同人アニメとの差はどこにあったのか。それを知るためにも、いくつか具体例を挙げてみたい。
近年、コンテンツ文化を席巻している「萌え」と呼ばれる表現様式に多大な影響を与えた漫画家・森野うさぎが中心となって運営されたサークル「SYSTEM
GZZY」は、80年代の後半に至って、SF大会のOPとしてアニメーションを制作した「DAICON FILM」(1981年〜1985年)などの影響を受け、特撮大会のOP用の自主アニメ制作を進めていくことになる。そうして完成した作品が、特撮大会「ウル祭III」のオープニングアニメ「AWAKE」である(図版⑦)。ここでは、著名な過去の特撮・アニメ作品に登場するキャラクター(怪獣・怪人・メカなど)を美少女化するという、いかにも当時の男性向け同人誌的視点でのアプローチを貫徹し、質の高い作品に仕上げている。その勢いは、ストーリー性を持った同人アニメーション『オーパーツ
オーマン』(図版⑧)の完成をもたらした。彼らはまず、自らのサークルから同人誌を発行し(図版⑨)、その売り上げを援用することで同人アニメの制作を実施しており、その創作意欲は、ついには成人向けの商業アニメ『りっぷ☆すてぃっく』(OVA、白夜書房、1985年)の製作に結びつくのである。
さらに、同人誌上における企画が、劇場用アニメーションにまで発展した例についてもみておこう。1984年、著名なアニメーター達が、日ごろの欲求不満を解消するかのごとく、自分たちが本当に制作してみたいアニメの企画および架空の設定資料を同人誌として発表する。それが現在においても海外では日本を代表するアニメとして高い評価を得ている『プロジェクトA子』であった(図版⑩)。この企画書+設定資料集という同人誌は注目を集めることになり、その2年後にあたる1986年には、もとの企画書にあったアダルト要素を減少させることで一般劇場映画として制作され、公開されたのである。これは、ほぼ同時期にアマチュア・アニメの企画としてスタートし、最終的には劇場用アニメーションの制作へと発展した『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(ガイナックス、1987年)ともシンクロする動向である。
この時期のコミックマーケットでは、女性向け、男性向けを問わず、販売される漫画同人誌なども、カラー表紙・オフセット印刷があたりまえとなり、その内容もいっそう充実していき、そこから多くのプロ漫画家を輩出するという状況が常態化していった。このようにコンテンツ作品の制作という点において、様々な場面でプロ・アマのボーダレス化が急激に加速し、同人誌の制作を生活資金調達の中心とするようなプロ同人作家さえ登場することになるのである。
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図版⑦
特撮大会「ウル祭V」(1984年8月16日)のオープニングアニメーション『AWAKE』のイメージボード集として、 上映前に刊行された同人誌(1984年3月20日)。
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図版⑧
アニメーション完成後に刊行された同人誌『O-MAN』(SYSTEM GZZY、1990年) |
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図版⑨
アニメ制作資金の調達や宣伝を目指して発行された同人誌『ん』(1984年12月)。 森野うさぎ、ふじたゆきひさ、来留間明らアニメ制作スタッフが執筆。
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図版⑩
同人誌版『プロジェクトA子』(1984年12月)。 架空の絵コンテや原画などが掲載されているが、 A子、B子、C子ら主要キャラクターの設定はほぼ完成している。
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