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■70年代のコンテンツ系サークルの成立とコミックマーケットの誕生
沈滞する少年漫画と新感覚の少女漫画の隆盛という70年代の状況下において、急増する女性漫画ファン主導による漫画同好会の結成と同人誌の制作が進んでいった。また一方で、『宇宙戦艦ヤマト』の大ヒットによってもたらされた第1次アニメブームの影響で、他のヒット作品にもファンクラブが設立され、同人誌・ファンジンの制作が活発に行われるようになった。このようなコンテンツ文化の積極的享受層の出現と顕在化は、確かな技術を持ったセミプロを生み出し、その人材の中からプロとして商業作品の制作に携わる者があらわれた。また、漫画やアニメーションを研究する同人誌の増加は、各自の視点で批判・批評するアマチュアが顕在化したことを意味しており、そのような批評空間の熟成が、後の日本のコンテンツ文化作品の質的発展に大きく関与していることを心にとめておきたい。このように70年代後期において、従来の創作中心の同人漫画に加えて、コンテンツ作品を巡るアマチュアによる2次創作物の「創り手」「語り手」が増加し、その受け皿として、いくつかの同人誌即売会が誕生した。そして、そのうちのひとつが、1975年に開催された第1回コミックマーケットであった。
■80年代の社会状況とコンテンツ
1980年代は、コンテンツ文化全体にとっても、またコミックマーケットにとっても、大きな転換点となる重要な時代であった。まずは当時の社会状況とコンテンツ文化全般の様子からみていきたい。
①国内の社会状況
多年にわたる保守政治によって生じた癒着が政治汚職などの形で表面化し、その糾弾の渦中にあった70年代の政治状況は、中曽根康弘氏の首相就任(1982年)のころから、明らかな保守復調の傾向を見せ始めた。このような安定指向に呼応するかのように、80年代の経済状況は、オイルショックなどが連続した70年代の不況から脱し、とくに80年代中期以降、のちに「バブル景気」と呼ばれる好況に沸くことになった。このような政治・経済の安定好調とは相反するように、社会状況はある意味で悪化する。それは、校内暴力、家庭内暴力の表面化が目に付くことからもわかるように、従来までの地域社会や家族制度などの共同体が崩壊し、喪失へ向かっていく傾向をみせはじめたということである。
②80年代コンテンツの特徴
70年代後半の『ヤマト』ブームによって顕在化したアニメ・ファンは、80年代に入るとその数を増加させていった。1980年には、アニメファンサークルの情報誌『FANZINE』(図版③)が刊行されるほどの勢いであった。さらに80年代初頭に『機動戦士ガンダム』の流行が社会現象となると、メディアがこの状況に目をつけはじめ、70年代後期に創刊された『アニメージュ』に追従する形で多数のアニメ情報誌が刊行された。アニメ情報誌の刊行ブームも後押しとなって、アニメファンのサークルが全国で急増していく。アニメ作品の制作・流通に関する周辺情報(監督、脚本、キャラクターデザイン、作画、制作プロダクションなど)へも関心が向けられていく状況が出現したことで、アニメーション制作サイドも従来のマーケット(一般の児童など)に加えて、アニメファンの存在を認知し、ターゲットとすることで、作品に関する意識を共有する傾向をみせはじめた。
停滞していた少年漫画にも新たな傾向の作品があらわれた。いわゆる「ラブコメ」である。COM出身の漫画家・あだち充が、『少年ビッグコミック』誌上で1980年より連載をはじめた『みゆき』は、義理の妹と同級生、 二人の「みゆき」の間でゆれる主人公の日常を描いて見せ、大ヒットを記録した。この時期には、次々に現れる宇宙人の美少女と高校生のドタバタをスラップスティックに描写したギャグ漫画『うる星やつら』など、様々なラブコメ作品が登場した。ラブコメの登場は、70年代に見られた深刻かつ閉塞感のただよう漫画群を凌駕していった。また、滅亡を描いた70年代の漫画に対抗するかのように、滅亡後の世界の再生を目指す漫画が目立つようになる。その代表作ともいえる『風の谷のナウシカ』と『北斗の拳』は、一見まったく異なった物語と認識されがちではあるが、「核戦争後の荒廃した世界を舞台に、そこに根付いた価値観を転換するために、世界再生を実現する救世主が活躍する」という、ほぼ同一のストーリーの骨格を持っており、80年代の状況や雰囲気を伝えてくれる好例といえるだろう。
前述のように70年代のコンテンツ作品の大きな特徴を「滅亡」「閉塞感」などと表現するなら、80年代コンテンツの特徴は「創世」「再生」であり、「軽さ」「明るさ」「未来志向」であり、さらに「メタ化」「パロディ」の意識的な開始時期と表現できる。
1950年代〜1970年代までに制作されてきた様々なコンテンツの形態や作品をリスペクトしながら、その構成要素を抽出し、組み替える作業が開始されるのが1980年代コンテンツの特徴の一つである。蓄積されてきたコンテンツ作品に関する知識を弄ぶ第1次オタク層の登場は、目が肥えたギャラリーの増加につながり、厳しい批評眼に応えるセンスと技術を持ったセミプロが制作者となって、そこからプロが生み出される環境を整えていった。また、明確に「表」と「裏」のコンテンツが生み出されるのも80年代コンテンツのもう一方の特徴といっていいだろう。具体的には、同人誌、同人アニメ、OVA、PCゲームなどインディペンデントなセミプロやマイナープロが作り出すコンテンツ作品群が、オーバーグラウンド文化の流通・販売に乗った漫画やテレビアニメ、アーケードゲームなどのコンテンツ作品と併走する形で、80年代を通じて発展をつづけた。こういった現象は、コンテンツ作品を享受する層が成熟し、80年代に入って、個人的な細分化した志向(嗜好)を持ったことにより生み出されたものである。このような状況を受け、コミックマーケットケやそこに集うサークルの質と量にも大きな変化がもたらされることになる。
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