森川嘉一郎
(建築学者、AIDE新聞出張版67「ベネチアビエンナーレ国際建築展」特集にて取材)
■『コミックマーケットはやめません』
「コミックマーケットを“美しく終わらせる”というお考えは、ありますか?」
「コミックマーケットはやめません。たとえ老害と言われようと、続けることに意味があると思っています」
2005年3月21日、くしくも米沢代表の52歳の誕生日に開催された、コミケットスペシャル4。そこで行われたヴェネチア・ビエンナーレのコミックマーケット再現展示の一環として、米沢さんと私とで、トークショーをすることになった。トークショーとはいっても、聴衆の前で、私が一方的に米沢さんにインタビューさせて頂いたようなものだ。その中で、最後の質問として聞かせて頂いたのが、「コミケの終わり」についてだった。
米沢さんに初めてお目にかかったのは、まさにビエンナーレへの出展のお願いをしに、コミケットの事務所にうかがったときだった。初対面の得体の知れない若造が、国際建築展で「おたく」をテーマに展示をつくるという、いかにも怪しげな計画を携えて来たわけである。しかも、制作実費の一部が出るだけで、出展報酬などは何もないという。にもかかわらず、米沢さんは、即断で引き受けて下さった。それはおそらく、コミケにとってのメリットやリスクを秤にかけてというよりは、その怪しげな取り合わせに、何らかのチャレンジの対象を見出して頂けたからだった、と思う。
トークショーが行われたコミケットスペシャル4という催し自体が、24時間耐久でコミケを行うという、前代未聞にして運営側にとってはいかにも過酷そうな試みだった。それを敢えて挑戦されたのは、コミケを生きたお祭りとして継続させてゆくためには、たゆまぬ変化と新鮮なモチベーションが不可欠だという、信念があったからだと思う。継続させていくためにこそ、変化が必要であり、その変化を楽しむためにこそ、継続させる必要がある。コミックマーケットは、そのようなフロンティア精神の実践だった。
「たとえ老害と言われようと、続ける―」。その米沢さんの返答に、会場からは、自然と拍手が沸き起こった。それは、コミックマーケットを継続させていくということに対する賛意であると同時に、米沢さんのフロンティア精神に対するエールではなかったか。
その精神を、引き継いでゆきたい。そうすれば、未来のコミケも、これまでと変わらぬ楽しい祝祭であり続けるはずだ。
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