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女性のおたく向け専門店の集中地帯が、東池袋にある。そのような情報が、この3月あたりから、新聞や一般誌で取り沙汰され始めた。一方、当のおたく側からのこうした紹介記事に対する反応をウェブ上で見ていると、意外と「知らなかった」という声が散見された。まだ秋葉原ほど、全国のおたくの間で認知されているわけではなかったということか。逆に、以前から池袋の漫画専門店に親しんでいる人たちの中には、「東池袋が女性向けに特化しているという書き方はいかがなものか」と批判する向きもあった。
秋葉原におたく系専門店が集中していることが一般のメディアで取り上げられるようになったのは、おおむね2003年に入ってからのことである。男性向けのおたく系ニュースサイトには、2000年代に入る頃にはすでに、毎週のように秋葉原に関わる情報が掲載されるようになっていた。日常的に秋葉原に通い詰めていた人たちはもちろん、そうではない地方人であっても、おたく的な関心をもってウェブに接する人であれば、秋葉原が聖地化していることは周知のことだった。
逆のとらえ方をすれば、マスコミは2003年になるまで、あまり秋葉原の状況になど関心を向けてこなかったとも言える。2003年の3月には、『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞を獲っている。これにより政府が今後の輸出商品の有望株にアニメを位置づけるようになり、ビジネスの面から「オタク産業」が注目を集めるようになった。そのような方向での関心の高まりが、以降、一般のメディアが秋葉原に視線を向ける際に少なからず作用するようになっている。2004年になるとシンクタンクやアナリストたちが「オタク市場」の推計規模を発表しだし、2005年には「萌え市場」「萌え銘柄」なる言葉まで踊るようになった。さらに、アキバ系おたく男の恋を題材にした『電車男』が、映画化と相乗して100万部を突破するという事態も並行して起こっている。
東池袋に女性のおたく向け専門店の集積地ができていることが、まだ当のおたくの人たちに浸透しきっていない段階で早くも一般誌に載るようになったのは、「オタク」と「秋葉原」とが一般の間で話題性を帯びるようになった、ここ1、2年の状況と関係しているだろう。そうした記事の中で、必ずと言ってよいほど「オタク男の聖地と化した秋葉原」の「女性版」というとらえ方で「池袋」が紹介されていることに、これは表れている。
一般メディアでの露出の端緒となったのは、今年の2月から3月にかけて、共同通信を通じて複数の新聞に掲載された、評論家の藤本由香里氏による「乙女の聖地・池袋 秋葉原とのすみ分けへ」という見出しの記事である。「東京・池袋に『乙女ロード』というのがあるのをごぞんじだろうか?」と始まるこの記事では、次のように「乙女ロード」を紹介している。
かつて家電の街であった秋葉原が、パソコンの普及とあいまって、いまやゲームや同人誌、フィギュアやグッズなど、おたく、それも男おたくのための街に変容したことはよく知られている事実だが、最近では池袋に、その女性版が形成されつつあるというわけだ。
「おたくの聖地・秋葉原」に対する「乙女の聖地・池袋」。
(2005年2月9日共同配信、上毛新聞3月21日などに掲載) |
ここで使われている「乙女ロード」「乙女の聖地」というフレーズにおける「乙女」という言葉は、どのように説明されているのか。これについては、日経新聞の付録紙NIKKEIプラスワンに載った「女性向け市場に大手参入」という記事中の解説を引用する。
乙女系とは、女性ファンに向けた小説や漫画、ゲームの総称です。内容は大きく二つに分類できます。
ひとつは女性の主人公と美少年との恋愛を描いたもの。
(略)
もうひとつは美少年同士の恋愛を描く「ボーイズラブ」という分野の作品。
(NIKKEIプラスワン2005年6月11日) |
ちなみにこの記事でも、「家電の街だった秋葉原がオタクの街 へと変化したように、池袋も乙女の街になる兆しがあります」としている。そしていずれの記事でも「乙女ロード」という呼び名を、漫画情報誌「ぱふ」によって命名されたものとして紹介している。
「ぱふ」誌はこれまでにも「乙女ロード」というフレーズを幾度か池袋に関連した記事で用いているが、初登場は2004年5月号である。「途中下車の旅〜池袋編」という、池袋のおたくスポットを紀行風にレポートした記事の頭の方で、「この辺は女子向け同人&グッズショップの密集地帯で(ユ)と(布)は勝手に『乙女ロード』と呼んでいます」としている。(ユ)と(布)は記事を担当した二人の女性編集者の記号で、編集長の竹内哲夫氏にうかがったところ、「乙女ロード」というネーミングは編集会議の中で彼女たちによって発案されたものだという。
なお、この「途中下車の旅〜池袋編」は、2004年1月号掲載の秋葉原編に続く記事で、秋葉原では男性向けばかりだったのでその「リベンジ」を、という趣向で書かれている。企画としては「池袋特集」がまず浮上したが、いきなり池袋だと唐突感があるため、全国区でおたくの街として知られている秋葉原をまず取り上げ、それを枕にするような形で池袋をフィーチャーする、という順序にしたという。女性の漫画・同人誌愛好家を主たる読者とする「ぱふ」誌においてさえ、2003年末の時点で池袋を街モノ特集の筆頭に取り上げるのは唐突だと編集部が判断したことは、興味深い。そしてここでも、「漢の世界」秋葉原に対する「乙女の街」池袋、という構図が採用されている。
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