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児童ポルノ法案−その後
「児童買春・児童ポルノ禁止法」ついに成立
にしかた公一(マンガ防衛同盟)
去る5月18日に私たちが継続してウォッチしてきた「児童買春・児童ポルノ禁止法」が成立し、法律となりました(秋に施行される予定)。これにより、日本でも「(実在する)18歳未満の子どもの性的なシーンを撮影した写
真・ビデオ等」販売配布に限っては禁止されることとなります。今回はこの法律が成立に向けた昨冬(前回の冬コミ)以降の動きと、法律に残っている問題点についてレポートします。できれば、前々号の「AIDE新聞」の記事とあわせてお読みください。
与野党が協議し、新法案へ
昨年1年間、私たちの団体「マンガ防衛同盟」や出版界などの活動、および民主党を中心とする野党が抵抗した結果、冬までに「児童買春・児童ポルノ禁止法」の「自社さ案」(私たちが批判してきた、旧与党3党の案)を、そのまま成立させることを難しい状況にすることができました。いっぽう民主党が対案として「子ども買春・子どもポルノ禁止法案」を用意するなど、議論も深まっていました。
とはいっても、この両案のあいだにあったのは細かい違い(この「細かい違い」が、私たちマンガや同人の関係者にとっては大切なわけですが)ですから、それで子どもを守る法案すべてがつぶれてしまっては、人権や国際信義の点からも困ります。そこで国会にすでに提出されていた「自社さ案」と、民主党が用意した案の双方をすりあわせたうえで成立をめざす、与野党協議の枠組みが作られたわけです。
具体的には「自社さ」「民主党」だけでなく、公明党、自由党、共産党も加わった「児童買春等問題勉強会」が「自社さ案」を強力に推進してきた森山真弓・元文相(自民党)を座長としてできました。ここで「自社さ案」(仮にA案)をいったん取り下げ、また「民主党案」(仮にB案)も提出しない合意がなされました。2月時点では折衷案として「参議院法制局案」(仮にC案)が作られたのですが、これも紛糾し、さらに「D案」、そして「E案」までがつくられました。ここでは児童ポルノに「絵」を含めるかどうか、麻薬並みにただ持っていることも禁止・処罰される「単純所持禁止」規定について民主党の要求が通り、C案、D案、そして最終E案でも外されたのですが、常に巻き返しの可能性はあり、注意が必要でした。なかでも特にポルノの範囲をどう扱うのか、年齢についても「16歳未満にすべき」という意見が出ては消えるなどしましたが、結局「児童ポルノ」の定義に残る曖昧さの問題は若干、残りました。もっとも曖昧な定義については、厳密すぎれば必ず漏れが生じますから、難しいところではあります。その点「国民の権利を不当に侵害しないように…」と規定した条項が入った点は評価すべきでしょう。
また、児童ポルノとして禁止される「写真、ビデオテープその他の物」の範囲については、「絵」を明記しないことでコミック類は対象外とすることを明確化しようとした反面、実際の児童虐待を描写した写実的な絵については「その他の物」に含まれることとなりました。
こうして作られた法案については「自社さ案」よりは遥かに優れているとはいえ、出版界からは「残念ながら不満の残る内容」(日本雑誌協会)とも評価されている。結局、使われている個々の文言については民主党の主張が取り入れられ、法律の目的も「児童の人権擁護」に限定されたものの、「自社さ案」と同様に「性的虐待」さらに「性的自己決定権」という考えは薄いままの法案となったのです…ここが通らない限り、禁止される範囲がどうであっても、人権擁護に力点を置くリベラルな案とは言い切れません。
参議院での低調な議論
しかし、この問題を残した案が3月、自民・民主をはじめ各党の合意のもとで国会に提出されたわけです。このとき参議院議員や参議院法制局が「勉強会」の中心となった経緯もあって、法案はまず参議院に提出されました(ふつう法律案はまず衆議院に提出されますから、珍しいことです)。このことは、参議院には法案に慎重な議員がいなかったこととも無関係ではありません。
参議院での論議は、かなり低調なものでした。この法案は刑法に連なる法律と位置づけられたり、人権問題や基本的な法律の改廃を扱う「法務委員会」に送られたのですが、ここでの論議では問題点を細かく掘り下げるというよりは、基本的な点だけを確認するにとどまりました。
そのなかで4月26日に行われた審議で注目すべき点を挙げますと、まず法案の曖昧な点は法律を運用していくなかで、裁判の判例を積み重ねることで徐々に絞っていく方向性が示されました(国民会議・中村敦夫議員の質問に対する公明党・大森礼子議員の答弁)。また、一般にコミック類は処罰対象にならない旨も明確に確認として答弁されました。逆に今後、規制を拡大していくことについては「単純所持」と「電子情報の扱い」が国際的動向を踏まえた上での3年後の見直しに際して、主な焦点となることが示されました(自民党・林芳正議員の答弁)。
表現の問題との関係では、中村敦夫議員が「自分も(「木枯らし紋次郎」以来の)映像世界出身の人間である」ということで、外形上は同じシーンであっても撮影者の意図によってポルノにも、そうでない「ほほえましい映像」にもなり得るケースもあることを指摘するなどしました。しかし参議院における実質の審議時間はわずか1日、2時間で終了した上で4月28日、参議院本会議でも全会一致で可決、衆議院に送付されたのです。
衆議院の審議ではコミックも詳しく論議
ところが衆議院法務委員会での審議は、同じく法務委員会で審議される「盗聴法案」(通信傍受法案)を含む組織犯罪対策法案(今はファックスやコンピュータネットワークを使う同人関係者の方も多いので、これも私たちの同人ライフに関わってくる大切な法案です)との兼ね合いもあり、審議日程を決める段階から事態が複雑なものとなってきました。「児童買春・児童ポルノ禁止法案」の審議そのものが「盗聴法案」をめぐる駆け引きの一部となってきたのです(児童ポルノに関する審議をセクハラとして扱い、盗聴法案の審議に絡めて紛糾したケースもありました)。
さて、5月11日、14日に行われた衆議院法務委員会での審議は、一転して慎重な立場からの質問が続出する内容となりました。このうち「実在の人物を描写した」絵やコミックについては、枝野幸男議員(民主党)が「実在する人物を描写した『絵』は『その他の物』に含まれるとされるが、顔が実在の人物であっても身体が絵の場合はどうなるのか」と質問し、大森礼子氏は法案提出者として「その場合は実在する人物ではあっても、実際に存在する姿態ではないので含まれない」と答弁しました。枝野氏はなおも「ここは表現の自由に絡む問題なので、明確に確認してほしい」とし、法務省刑事局長と警察庁生活安全局長にも念押しの答弁を求め、双方から「そのように運用する」との答弁を引き出しました。
これによって、かつて野田聖子・現郵政相が処罰対象になると述べた「実在のアイドルをモデルとしたポルノコミック」は、「児童ポルノ」に含まれず、今回の法律では処罰対象に含まれないことが確定しました。ここは、同人誌の関係者にとっては重要な点だと思います。
人権を守る法律として徹しきれるか?
また弁護士出身の福岡宗也、佐々木秀典、坂上富雄の各議員(三者とも民主党)も、法案の問題点や刑法・少年法・児童福祉法・青少年条例など関係する法令との整合性について、問題点を明らかにする丁寧な質問を行いました。特に本来は「未成年者の人権を保護」することが目的の法律にも関わらず、援助交際(売春)や、アダルトビデオなどのポルノに出演した少女が「ぐ犯少年」つまり不良少女として補導され、例えば少年院に送られる可能性を排しなかった大森礼子議員の答弁は、この法律に「健全育成」の側面が残っている証拠を認めたと解することができるでしょう。この点は「勉強会」で意見が対立したところ、ということですが、この法律を「青少年健全育成中央立法」、つまり「子どもを管理する法律」と考える自民党系の根強さが示されました。
法律の目的についても「児童を性の対象とする風潮の助長を防止する」(円より子参議院議員・民主党)といった答弁が残り、法律の文言とは違って必ずしも個人の自由と人権を守るだけが目的ではないことが示されています。
このほか、保坂展人議員(社民党)も「子どもへの虐待防止」の観点から質問を行うほか、かつて『不思議の国のアリス』の著者、ルイス・キャロルが少女のヌード写真を芸術として残したことなどを取り上げました。
いっぽう木島日出夫議員(共産党)は「児童ポルノ」をザル法にしてはならないとする立場から「顔と身体部分が別の人間であるような、合成写真も児童ポルノに含めよ」と要求しました。これについては「身体部分が成年である場合は含まれない」との大森礼子議員の答弁がありましたが、木島氏は3年後に向けた改定作業の際にも検討するように求めました。
なお青少年条例の「淫行処罰規定」との関係については、一部で「効力が停止される」と報道されるなどしましたが、実際は「有償での(買春)行為についてはこの法律が適用されるが、無償の場合は各自治体で判断する」(林芳正参議院議員・自民党)との答弁になっています。これにより「淫行」を、以前と同様に青少年条例によって不良行為として取り締まる状況があまり変わらないことも予想され、大きな問題として残りました。
衆議院での審議は参議院のほぼ4倍、合計で8時間に及びました。この法案の持つ問題点の多くも取り上げられ、それなりに議論は深められました。その上で5月18日、この法案は衆議院本会議で可決され、法律となったのです。
3年後の見直しにむけて運動の継続を
私たち「マンガ防衛同盟」は、未成年者を被写体として製作された「児童ポルノ」が、日本でほぼ野放しにされてきた状況に、数年前から重大な懸念を有していました。これは日本では「児童ポルノ」を成年が登場する普通のポルノと単純に同一視して扱ってきたためです。つまり「性」にかかわる法律問題を「わいせつ」の観点からのみ取り扱い、見栄を張ってタブー視するばかりで、なかなか人権の立場から取り組もうとしなかった…その結果として「子ども」の性的自己決定権に対する重大な侵害である「性的虐待」が放置された、と考えたからです。「性」の分野の扱われ方に日本の人権状況の遅れが見えたのです。
つまり、私たちは「児童ポルノ」の製造および流通は「児童虐待」の行為そのものであり、未成年者である被害者個々人に対する人権侵害なのだから、ここに限って「表現の自由」に留意しつつ、何らかの規制措置を採る必要を認めてきたのです。
それでも私たちは「子どもの人権を守るために一歩前進」のところを認めながらも、今回の法律の成立を手放しで喜ぶことはできないと思います。私たちが求めた最小限の要求が採りいれられた点、および「性」の分野における規制に初めて人権を守る考えが取り入れられた点は歓迎したいと思いますが、多くの懸念すべき点が残ったことを考えれば「消極的支持」以上に評価できるものではないでしょう。
この法律は、3年後に運用状況や問題点、国際情勢などをふまえて、見直されると規定されています。今後は予想される法律の見直しに向けて、人権を守る以外の方向に法律強化がなされないよう運用状況の監視を強めながら、国会審議で指摘された「ポルノの範囲」「単純所持規定の是非」「合成写真など疑似ポルノの禁止」「サイバーポルノの規制のあり方」といった個別の問題点にとどめずに、あくまで法律の全面的な作り直し、つまり福祉法制としての「児童虐待禁止法」を制定することを求めて活動していきたいと考えます。
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終(表紙に戻る)
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