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●締切りにまつわる編集者との攻防戦
(プロとアマの違い)
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プロとアマの違いということについてどうですか?
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C:
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同人の作家さんはやっぱりうるさいですよね。漢字一字開いただけでも文句言ってきますね。商業誌なんでやっぱり読みやすいということを一番大切に考えているんですけど、商業的に理解してくれてる人もかなりいるなというのはコミケに行くとよくわかるんですが、その辺の理解をしてくれない方もまだいらっしゃるし、まだ自分の中だけの世界を大事にしてる人も小説に関してはかなりいますね。
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A:
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例えば「出来る」をちょっとひらがなにしたら、「私はこれは思いを込めているし」と言ったりする?(笑)
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C:
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そうそう。思いが込もっているって言う。
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そういうことがあるんですか?
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C:
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ありますよ。
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プロの人は割り切るわけですか?
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C:
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プロというか投稿上がりの人は割り切るというか「そんなの当たり前じゃない」と教えますが、でも同人誌の人には当然そういう常識がないんで。商業誌の常識がないというのは当たり前でその他の常識の差があるんだなというのは実感します。
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D:
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反則用語みたいなものですよね、あれも同人誌の人達はわかってないですね。
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C:
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反則用語って?
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D:
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使っちゃいけない言葉とか差別用語とか。
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A:
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「てにをは」をちょっと直してもだめとか。
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B:
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そういう作家さんで泣いたことあるとか?
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C:
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そうなんですよ。あるんです。同人誌作家のメジャーな人に「私はこんな大作家なのになんでこんなこと言うんですか」って言われて……。
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締め切りに関してはどうですか?
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C:
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ヒ、ヒドイです。
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待つだけの価値はあるんですか? 3日待てばあの作家はいいものを描くから待つとか……。
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C:
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それだけ人気のムチャクチャある人だったら待ちますよ。でもほとんどの人がある程度のレベルなんですよ。だから他の人でも代替が効くと思ったら変えます。
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大作家でもないのに1週間も延ばすとか?
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C:
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1週間じゃないですよ。1ケ月とかですよ。1週間だったらいいですよね?
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B:
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うちのマンガ誌なんかも代原ががんがん入ります。月にヘタすると3本位とか入ったりします。
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A:
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その辺で言えば私らは「遅い人は使わない」という考え方なんですよ。長い間で良くても使わないと。それをやると雑誌は潰れるという考え方で、美少女系の雑誌を見てて違うなと思ったのは、うちは常識的な作り方で作ってるわけなんですね。具体的には次号予告って出すわけですよね。美少女系では予告がないんですよ。次号予告がなければ落ちたも落ちないもないじゃないですか。私らが次号予告を載せるっていうのは落ちたものは落ちたと読者に詫びなければいけない責任であって、それと表紙に載ってるものがないというのは商品として欠陥を出してしまったという意識がすごくあるんで許せないんですね。作家にはそれをわかってもらうしかないし。
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B:
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あと、コミケ前って皆さん締め切りをコミケの方を優先させる部分ってないですか?
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A:
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うちは連載を中心にしてるんでコミケの話も聞くけど、もちろんそれはそれで。連載っていかに重要かということをわかってもらうようにしています。
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B:
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万全なわけですか?
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A:
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いえ、万全ではないです(笑)。
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B:
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例えば月刊誌の平常進行があるじゃないですか。で「コミケ前だから原稿頼めない」とかありませんか?
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C:
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コミケを理由に断られるとか。
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D:
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でも、それはお互いですよね。コミケ前の印刷所も「商業誌があるから遅れるんですよね」と言う人いますよ。「商業誌の原稿に追われてるんで、印刷の方は1週間遅れます」とか。で、結局ギリギリに入稿。
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結構ありますよね。締め切りを設定しても「私は商業誌があるんで……」と言って延ばしたりしますよ。
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B:
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両方に言ってるわけですね(笑)。
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A:
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本人がそういう状況を楽しんでいるというのもありますよね。なんか自分は忙しいという。同人の方でも「どうですか?」って言われて、商業誌でも……という。修羅場感覚を楽しむというか。
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楽しんでいるというよりは苦しんでますよ(笑)。商業誌の後だと疲れてますよね。プロの編集の方に聞きたいのは、締め切りということなんですけど、締め切りというのは大切ですよね?
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A:
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命ですね。
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締め切りというボーダーラインをめぐって攻防があると思うんですけど、プロとアマと分かれることはありますか?
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A:
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まずプロの編集者というのは締め切りから物を言いますね。それが無理だったらそこには依頼しないわけで、「どうしてもやって下さい」とは言いませんね。この締め切りということで逆算して、全て結果
から作品過程を逆算してやるし、プロの作家もそこでできると答えるという。
とは言うものの、プロとプロ同志でもいろいろ重なっちゃってギリギリの場合、編集の方がどれだけ譲歩できるかということで幅があって、ギリギリまで待つわけだけれど、作家も頑張るがクォリティが下がっては仕方ないので減ページをしたりします。例えば22ページ依頼していてもあとは生産能力の問題だから2ページ削れば1日早まるとか。その辺はお互い話合いでいくというか。極端な話、母親が死んでもプロは描きますね。
プロかどうかというのは親が死んでも描いてから葬式に行くかどうかというか。
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D:
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この間お葬式に行けなかった人を知ってますよ(笑)。
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A:
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逆に言えば編集者もそうでなければいけないわけですよね。まあ、編集者の場合はお葬式に出るんだろうけど(笑)。相手にそこまで求めるならこちらもそうしなければ、と思いますね。
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D:
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その人親戚から総スカンを食らったそうです(笑)。
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B:
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あと連絡が取れなくなる人はアマチュアだと思いますね。本当の交渉しようという気持ちがある人は、とりあえず電話には出てくれるんです。現状では出来てないけど、これ位
にはと譲歩していって、こちらとしても印刷所のリミットがあるわけで、ここでどうしてもと言えばそれより早く上げてきますね。入稿の遅い作家さんで非常に売れる作家さんっているんですけれど、付いてないと電話連絡とれなくなってしまう方とか多いんで、電話連絡のとれなくなる人は極力使わないようにしています。
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D:
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遅い人というのはストーリーにこだわっているか絵にこだわっているか、どっちかだと思うんですけど。両方の人もいるかもしれませんが締め切り間際に電話なんか出たくないですよね。
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B:
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電話に出ない方が集中して出来るのは編集者としてもわかるんですけど。
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D:
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描く方の立場からすると、遅筆な人というのは売れる要素を持ってるんじゃないかと思うんですが、そういう作家は締め切り延ばしてもいいとか……。
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A:
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まあ、行けばいると……。
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B:
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電話に出なくてもいると……。
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A:
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いると信頼のある人はプロだよね。あとよんどころなくなると電話には出ない、もしくは行ってもいないとか(笑)。これはとんでもないことになってるからね。
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B:
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そうですね(笑)。
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C:
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プロとアマの差は、締め切りとかいろんな意味でやっぱり交渉できる人かどうかということだと思うんですけど。
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例えば「ものすごく良いものを描くんだけど、あの先生はどこかいなくなっちゃうんですよ」というのは許されるんですか?
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A:
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担当者の情熱との戦いだと思うんですけど。何とか価値があると思えれば担当者は食い込んで何とかしようとするんだけれど、それは編集者(まとめる方)から見ればその担当者が5〜6人抱えてるとして、例えその1本が良くてとれたとしても後の4本に担当者の本来の能力を発揮できなければだめなんです。この4本をベストの状態にしなければいけないわけだから、程度の問題がどこかで起きてきます。担当者本人がハマッてる場合は上司が悪い役目になってるわけです。
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それは難しいですよね。会社の判断とか……。
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A:
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いや、作家のためにもそれが大切だと思ってるんですよ。つまり悪いと思っていないんですよ。一見恨まれるけど、この世界で生きていくために後でそういう判断を有り難うと言うだろうと思いますよ。
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例えば「あの大作家さんを載せれば売れる」となれば待ちますか?
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A:
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今はそういう時代じゃないですね。名前で売れる時代じゃないです。ここ10年以上前から、はっきり作家名じゃ売れないですね。
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D:
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自分で単行本買って面白かったなぁって思ってても、作家の名前覚えてなかったりしますよね。
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個人名では本が売れないということですか?
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A:
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作家名でということはこの作家だったら間違いなく良いものを描くからその作家名で買うわけだけれど、無名だろうと何だろうとそれ以上のものを描いた場合は読者は反応するというか、そういう時代になっています。某週刊誌が名前を見たらこれ以上の人はないというような人を載せてやったけれど、その実売部数たるやひどいものでしたからね。普通
マンガを読む人なら7割方作家の名前を知ってるだろうし、活躍してた人ばかりなんですけれどね。
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一人の作家さんがプロの世界で落とした場合、どれ位の迷惑がかかるものなんですか?
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A:
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そこは危機感というのは、長い経験とノウハウの中で最悪のことは、事前に察知するというか。
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それもやはり編集者の仕事なんですね。
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A:
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そうですね。特に担当者が一番よくわかるわけで、例えば失恋してるとか。そこはどういう注意をしなきゃいけないかというのはそれぞれが分かっていることだろうし。普通
の感覚の作家であれば、自分がこういう危機に迷惑をかけることが想定でき事前に言ってくるとか。担当者がキチンと仕事をしていれば1ケ月以上前に感じとれるはずです。
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D:
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そこそこの人気作家なら代わりで済むかもしれないですけど、一番の人とかはどうするんですか?
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A:
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20年位やってきて思ったことは、雑誌というのは総合性で売るものだと言う考え方で、「この4番打者がいなければ」ということではなく、「なくても大丈夫!」と。巨人の松井があんなに三振していても清原なりダンカンなり、高橋が打って勝利しているということです。
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D:
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昔から「○○先生はご病気のため」とかってよく見ますよね。
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A:
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今はかなり減ったと思いますよ。編集部がそれじゃあやっていけないから。がんばってやったとしてもこれ以上だめならあきらめるというか。違う扱いをするとか。さっきの野球で言えば、代打。週刊誌はまた少し違って、あれは作家も担当もノイローゼですね(笑)。
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B:
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うちはまだ名前で売ってる作家がいるんですよ。それはマスの度合いによるんですけれど、美少女コミック市場としてはコンビニに入っていても1つとか2つとかっていうところが多いんですよ。そういうところはまだ作家さんに頼っている比率は高いと思うんです。ただそういう作家さんは落とします。原稿を落とすような人でも使ったりするんですよ。何故かというと単行本が売れるから。とりあえず単行本を出すところまでやろうということで。
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