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●各国の文化と社会、そして漫画事情の違い
昨年9月に、柿沼さんと二人で16日間の調査旅行に出かけました。東南アジア3国...インドネシア、シンガポール、フィリピンと、韓国の状況を調べ始めたのですが、これがなかなか大変でした。
まず訪問したのはインドネシアです。インドネシアは日本漫画の進出がすすんでおり、講談社の『なかよし』のインドネシア版も出版されています。しかし、イスラム教徒が多いなど、多民族・多宗教の国ゆえに、ヌード描写など厳しい規制があります。そんな制約のなかでも、アンズ・ヒザワ氏などレベルの高い女性作家を見つけることができました。また大学生の中には同人誌を作ったり、漫画のイベントを開催しているグループもあります。
シンガポールでもやはり日本漫画が人気で、しかも小国でありながら多民族という環境のなかで、オリジナル.の作家が育ちにくい環境にあるようです。招待したいと思うような作家さんもなかなか見つからず、正直、今回取り上げるのは無理かと諦めかけていました。ところが、出国する前日に出会った作家の中に、フー・スウィ・チン氏を見つけました。彼女の個性溢れる作風、またアメリカでも作品が出版されているという経歴を知り、慌てて出国ぎりぎりにもう一度連絡をとって、来日を依頼したのです。
またシンガポールで驚いたのは、一流ホテルのホールで、若者たちがコミケットのようなイベントを開いていたことです。主催者のグループは女性が仕切っており、参加者も女性が圧倒的に多いことに、また驚かされました。隣国のマレーシアから、わざわざ訪れる漫画ファンまでいるそうです。
フィリピンは、漫画は成人向けのペーパーバックか、児童向けの教育漫画かに、完全に分かれていました。社会階層の開きがまだ大きいので、下層階級では安価な成人漫画が読まれていますが、中流以上になると、美術的な要素の強いアメリカンコミック的な漫画本や、日本漫画の海賊版なども普及しているようです。
韓国の状況は広く知られていますが、最近特に、ネット上でのコミックの発表が盛んです。オンラインの読者が増えたため、出版漫画や貸本屋の市場が危機に陥っているほどです。出版界では雑誌の廃刊も珍しくありません。そうした環境のなかでも、少女漫画雑誌は、男性誌より健闘しているように感じました。
●『アジアinコミック2004』から得られたもの
この調査旅行をもとに、帰国後シンポジウムの準備を進めてきたのですが、実は一番心配していたのは、招待したパネリスト、特に作家さん方がおとなしい人ばかりだったことです(笑)。壇上でちゃんと話してくれるだろうか気掛かりで、質疑応答で予想される質問まで渡しておいたくらいです。しかし、いざ始まってみると、皆さんとても堂々と、いい発表をしてくださり、本当にホッとしました。
滞在中は、彼女たちに少しでもリラックスしてもらおうと、交流の場や、日本文化に触れる機会を設けました。特に、日本漫画家協会の女性作家さん方に声をかけ、協会の事務所で交流会を開いたところ、女性同士、また作家同士いろいろな対話があったようで、お互いに収穫が大きかったと思います。
また、今回のシンポジウムで一番の成果は、日本在住の外国人の方が、このテーマに関心を持ち、数多く来場してくれたことだと思います。講演後に「次は私の国を取り上げてください」という方まで現れて、嬉しい驚きでした。これこそまさに、アジアセンターが目指している、国際交流の姿なのではないでしょうか。
●漫画交流を妨げるもの、それは日本のなかにある!?
しかし、漫画を通じた交流には、依然としてさまざまな障壁もあります。例えば、専門学校の漫画コース以外の方法で、私塾に通ったり、アシスタントをして漫画を学びたいと思う外国人に対して、現在の日本では「漫画」という名目ではビザがおりません。いろいろと調べてみたのですが、これは、いわゆるアーチストビザ、つまり芸術目的で来日して活動するためのビザに「漫画」という項目が含まれていない、ただそれだけが原因なのです。専門学校は学費が高すぎて通えない、でも漫画を勉強したい、そういう人たちは、語学研修のビザを取って日本語学校に通い、アシスタントなどをしながら漫画を学んでいる状態です。日本でも、政府の漫画に対する認識は、まだまだ浅いと言わざるを得ません。
以前私が危惧していたとおり、現在日本の漫画出版は、停滞状況に陥っています。同人活動も、そのすそ野は広がりましたが、誰でも手軽にできる環境が整った分、「表現すること」が安易に考えられていないでしょうか。アジアの同年代の作家たちは、出版市場、画材、社会的な地位など、さまざまな制約の中にあっても、情熱をもって漫画に取り組んでいます。
私はこれまでの交流活動で、漫画を通じて育まれた感性は、文化の枠を超えて通じるものだと確信しました。特に個人的には、アジア人同士の漫画に対する感性は大変似ており、漫画文化は、これからもアジア中へ自然に広がっていくと思います。
漫画は、紙と鉛筆さえあれば世界中どこでもできる、すばらしい表現手段です。漫画に携わる若い皆さんも、ぜひ海外のすばらしい表現に触れて、自分たちの創作の刺激にしてください。
(2004年4月14日、日本漫画学院にて談)
...木村氏が発行している『漫画新聞』は、今年で発行27年目を迎え、通巻300号以上を数えている。その功績から、日本漫画協会の2003年度特別賞を受賞したそうだ。「新聞発行も国際交流も、続けることが何より大切で難しいのです」という木村氏の言葉が印象に残る、今回のインタビューだった。■
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